認知症になっても“自分らしさ”を保つために

「認知症対策」という言葉がよく聞かれるようになりました。

主に、相続対策の分野ですが、財産を持っている方が認知症になっても、家族が困らないように、不動産賃貸などの事業が金銭的な理由で滞らないように、備えておきましょう、というものです。

 

それはそれで、とても大事なことですが、これからお伝えしたいことは、お金のことというよりは「生活の質」に関してです。

 

筆者の業務のひとつに、成年後見という業務があります。

裁判所から任命されて後見人となる「法定後見」や、まだしっかり自分で判断できるうちに将来の後見人を決めておく「任意後見」の2種類がありますが、どちらも、判断能力が低下した方のために、お金のことや手続きのことをサポートするのが役割です。

少し小難しくいうと、法定代理人となって、ご本人の代わりに金銭管理や身上保護(各種の手続き代行)を行っていきます。

 

成年後見制度が始まったのは、平成12年です。

その創設の際に掲げられたのが、次の3つの基本理念です。

(1)自己決定権の尊重

(2)現有能力の活用

(3)ノーマライゼーション

 

特に(1)の自己決定権の尊重は大切です。

認知症になり、判断能力が低下したといっても、何もわからないわけではありません。

複雑な判断が難しくても、何を好むか、好まないか、どうしたいかを判断したり、それを意思表示したりすることはできます。軽度の段階でしたら、在宅での日常生活も可能です。

 

しかし、認知症が重度化してくると、そういった判断や意思表示は難しくなってきます。でも、自分に対する振る舞いに対して快不快を覚えたり感じることはできるため、支援する側がご本人の好みや希望を把握しておかないと、ご本人にとっても支援者にとっても、不幸なすれ違いが起きてしまいます。

 

なので、筆者は、ご本人がまだしっかり判断能力があるうちに、その方がどういう考え方をする方なのか、何を好むのか、どんな来歴があるのかなど、「相手を知る」ことが、とても重要だと考えています。

そういう相手を知ることが、ご本人の代わりに判断するにあたって、よりご本人のための判断ができると考えているからです。

 

実際に、任意後見契約では「ライフプラン」の活用は必須となっています。

よく将来のお金の設計に関して扱われるマネープランではなく、筆者がお伝えするのは、将来、後見人になる場合に、「こういう場合にはこうしてほしい」という要望をまとめたものです。任意後見契約の中で、後見人として何をしていくのか定めますが、具体的な要望はライフプランにまとめていきます。

例えば、在宅生活を望むのか施設入所するのか、施設に入るならどのような施設がよいか、アレルギーや嫌いなものはなにか、延命措置をどうしたいか、いざというときに会いたい人…そういった事項について。

 

それって、何かに似ていませんか?

そう、エンディングノートです。

 

エンディングノートは、まさにライフプランそのものです。

これをお読みになってる方が、成年後見が必要になるかどうかはわかりません。

 

でも、実際に認知症になったとき、自分で判断を示せなくなったとき、それでも「自分らしさ」を保つために、エンディングノートを活用してみてはいかがでしょうか。

(文責:協会理事 徳武聡子)