相続登記義務化で困らないためにエンディングノートの活用を

令和6年4月1日、いよいよ相続登記の義務化が始まりました。
法務省が令和5年12月に発表した相続登記の認知度調査の結果では、「相続登記の義務化を『聞いたことがある』と答えた人は、約 58 %」と一定数の認知がされている一方で、「相続登記の義務化 を『よく知らない』『全く知らない』と答えた人は、約 67 %」に上るなど、制度の詳しい内容は、まだよく知られていませんでした。
とはいえ、令和6年に入りニュースでもしばしば取り上げられましたので、耳にした方も多いのではないでしょうか。
 
 
相続登記とは、土地や建物の所有者が死亡したときに行う、不動産の名義変更のことです。本来、所有者が変更すれば、国に登録(登記)している名義人情報も更新するのが望ましいのですが、これまでは「面倒だ」「お金がかかる」「住むのに問題ない」などの理由で、名義変更手続きを行わないという人も少なからず存在しました。
その結果、平成29年に国土交通省が行った調査では、およそ九州全土に相当する土地について所有者がすぐにわからない、という状態になってしまっていたのです。わからない理由の3分の2は、相続登記がされていなかったためでした。
 
そこで、国は、この相続登記に法的な義務を課すことにしたのです。
これまでは相続登記をしなくても、違法ではありませんでした。しかし、令和6年4月1日以降は、3年以内に相続登記をしないと違法となり、場合によっては金10万円の「過料」という金銭負担を強制されることになったのです。

さて、相続登記の義務化ですが、簡単に言えば、次のような内容です。
 ①遺言があれば、遺言のとおりにする
 ②遺産分割協議がまとまれば、遺産分割のとおりにする
 ③相続人全員で法定相続分のとおりにする(あとから遺産分割が可能です)
 ④自分は相続人ですと申告する(「相続申告登記」と呼ばれています)
この①から④のいずれかの登記手続きを、不動産の名義人が死亡して自分が相続人であることを認識してから3年以内に実施しなければならなくなりました。
 
3年というと、長いようで短いです。
この間に、遺言があればよし、遺言がなければ相続人の間で誰が不動産を承継するか、話をまとめなければなりません。
とはいえ、3年間何もしなければ、直ちに国から10万円の過料が課せられる、ということではありません。まずは、相続登記をするよう催告があり、それでも相続登記を実施しないとき、そこに正当な理由がなければ、初めて過料を課せられるようになります。
  
ところで、この相続登記の義務化に対して、何か対策はとれるのでしょうか。
既に不動産の所有者が死亡している場合、遺言がなければ、早々に遺産分割協議により不動産の承継者を定めるか、共同相続登記や相続人申告登記をする必要があります。いずれにしても、他の相続人とも話し合い、歩調を合わせて手続きを進めるのがよいでしょう。
 
では、不動産の所有者がまだ存命の場合、どのような対策がとれるでしょうか。
真っ先に考えられる手段は、「遺言を作成しておく」ことです。遺言があれば、相続が発生した場合でも、速やかに遺言にて承継者と定められた相続人や遺言執行者が相続登記をすれば、事足ります。

しかし、我が国では必要性は感じていても、遺言の作成に踏み出すことが難しい方が多々おられることも事実です。
そのような場合には、ぜひ、縁ディングノートを活用していただければと思います。
縁ディングノートを書く中で、不動産だけでなく他の財産の棚卸しをしたり、自分のこれまでの歴史を振り返ったり、連れ合いや子どもたちなど家族のことに想いをはせたりすることで、少しずつ不動産や財産を誰に継いでもらいたいのか、考えがまとまることでしょう。
 
物を書いたり、まとめたりすることが苦手であれば、相続登記の義務化をきっかけに、不動産をどうしたいのか、ご家族と話をしてみるのも有効です。
そういった家族とのコミュニケーションがある家庭は、いざ相続が発生したときでも、遺産分割協議が円滑に進むことも多く、.遺された相続人も、定められた期間内に続登記手続きをすることができるでしょう。
そして、それ以上に、これからの家族関係にも良い影響をもたらすことを願っています。

(文責 徳武聡子)