もめ事を扱う法律事務所が事前対策をおすすめする理由
1法律事務所のお仕事はもめごとを解決することだけじゃない
筆者は法律事務所に20年勤務し、現在は法律事務所内の相続コンサルタントとして活動をしております。長年法律事務所にいて感じることは、「世間の人が法律事務所をうまく活用しきれていない」ということです。一般的に法律事務所は「もめてから行く場所」と認識されていることが多いのですが、実は「もめる前に対策をする場所」として最適な場所なんです。なぜなら、「もめる原因をよく見ているから、もめない対策が得意」なんです。なので企業顧問のお客様に対しては、「もめてからの対策ではなく、事前にもめないようにする対策」をしてもらいます。そうしておくことで、心おきなく本来の事業に専念をしていただき、業績を向上していただけるからです。
「相続」の分野でも同じことが言えます。事前に、あなたがもめない対策をすることにより、本来の目的である、「あなたの大切な家族を守る」ことができるのです。そこで、法律事務所から見た「こうしておけばもめずに家族が幸せに過ごせたのに」と感じた事案をお伝えしていきます。
2 お医者様のご家族の相続案件をもとに考えてみる
10年ほど前のお話で、依頼者はお医者様の奥様Aさんです。こちらのAさんは専業主婦で、亡くなったご主人とは再婚でした。前妻との間には子が1人(長男)、Aさんとの間に子が1人(長女)おり、相続人は、Aさん(法定相続分1/2)、前妻との子の長男(法定相続分1/4)、Aさんとの子の長女(法定相続分1/4)の3人でした。Aさんと結婚してからのご主人、Aさん、長女は、長男とほとんど交流がありませんでした。また、夫婦の財産の詳細は伏せておきますが、名義はほとんどご主人になっていました。ご主人のご存命の時は、「夫婦は同じお財布」で、いつもご主人の口座から生活費を自由に引き出し、何も気にされることはありませんでした。
ところが、ご主人が亡くなり、いざ遺産分割をしようとしたときに、長男が法定相続分を超える遺産分割の請求をしてきたのです。スムーズに遺産分割ができないので、今まで「夫婦は同じお財布」として生活をしていたご主人名義の預金通帳も名義書き換えができずに凍結され、収入がない奥様は生活ができなくなってしまいました。お医者様であるご主人は個人事業主でしたので、遺族厚生年金はもらえないのです。預金は、夫婦で老後のお金に使おうと夫と一緒に貯めていたお金で、自分のお金なのに使えなくなってしまい、本当に困っていました。「下着すら買えない」と言って、離婚してシングルマザーとなった娘に頼るしかなく、泣いていらした姿を思い出します。
3 こうすれば争いを小さくすることができた
では、もし、ここでご主人が事前に相続の対策のための相談をしてくれていたら、どんなことができたでしょうか?
まずは、一つ目に考えられるのは、ご主人やAさんが、ご長男との確執を解いておき、和解しておくことです。これはみんなが一番幸せになれる方法です。
それが難しい場合は、ご主人が遺言書を書くということです。ただし、もめたとしても調停をされないようにするために配慮が必要です。つまり、遺留分に配慮した財産の分け方にするものを作り、最後に、「付言事項」をつけて、特に縁遠くなってしまったご長男に向けて、ご主人(ご長男からしたらお父様)の想いを書いておくことがいいでしょう。
またはご主人にエンディングノートを書いていただき、お父様の想い、お父様の人生などをつづられたものを相続人であるご家族に残していくこともいいですね。ただし、エンディングノートは法的効力がないため、この場合はエンディングノートを補完するものというかたちにしておくのがいいでしょう。
また、ご主人の死後の奥様の当面の生活費の確保ということであれば、ご主人に偏っていた夫婦の財産を、生前贈与などをして奥様の財産を増やしておくことも大切ですね。
また、ご主人の健康状態に問題がなければ、奥様が受取人としての生命保険に加入することもできます。
4 まとめ
このように、いろいろともめない対策は考えられるのです。早い時期であれば、対策はたくさんありますが、状況が悪化すればするほど、打つ手は減ってきてしまいます。なので、その時の家族関係の状況に合った対策をしていく事が大切になってきます。
なかなか自分の「死」に向き合うことはつらいです。でも、生前に相続対策をする事は、残された家族が幸せでいるためでだけでなく、何より、ご自身が今から亡くなるまでのやりたいことの棚卸をすることで、よりよい人生を迎える事ができるのです。もめることは体力もお金も使います。心もすさんでしまいます。それよりも大切な家族のきずなは二度と戻らなくなります。是非、「相続対策のコツは生前対策」覚えておいてください。
(文責:理事 竹内みどり)