揉め事を扱う事が多い法律事務所だからこそ縁ディングノートの必要性を感じる事3

1法律事務所は相続発生後の問題の予防も得意

筆者は法律事務所に20年勤務し、現在は法律事務所内の相続コンサルタントとして活動をしております。今回は、縁ディングノートではありませんが、事前に相続対策をしたことにより、ご相談者様の想いをきちんと伝えられ、「家族がスムーズに相続手続きができた事案」について実際にあった事例(お名前、家族構成等は実際と違います)を元にお伝えしていきます。

 

2 家族構成と背景

ご相談者様は、川名太郎(仮名)様です。太郎さんは末期のがんになり、余命半年の宣告を受け、ご相談にいらっしゃいました。

太郎さんは会社を経営しておりましたが、従業員はおらず一人で会社を運営しており、会社の株を100%持っています。会社は負債を抱えておりましたが、会社の取引先が良かったので、太郎さんの病状を知って、太郎さんの知り合いが、太郎さんの亡き後は事業を引き継いでくれる(買い取ってくれる)という話も出ていました。

また、プライベートでは、太郎さんには奥様である花子さんと、10歳になる娘雪さんがいました。相続人は、奥様である花子さんと未成年の雪さんです。個人資産は1500万円ほどでした。

 

3 事前の対策をしていなかったら

もし、太郎さんが事前の対策をしていなかったら、太郎さんの相続人は奥様である花子さんと未成年の雪さんで、半分ずつ相続をすることになります。ただし、雪さんは未成年であるため、相続人の遺産分割協議に参加することが不可能です。通常であれば、親が子のサポートをすることになるのです。しかし、親である花子さんも太郎さんの相続人であるため、花子さんと雪さんは利益相反することとなり、代理人になることができません。そうなると花子さんは特別代理人を立て、遺産の承継をしていくことになります。

 

4 対策は遺言で

このような場合、事前に遺言書に「財産のすべてを妻花子に相続させる」と記載するだけで、スムーズな相続手続きが可能になります。どちらにしても、花子さんは雪さんを育てていくことは確実です。よって、遺言書で「妻花子に相続させると記載する」ことにより、遺産分割の協議をしなくても、遺言書通りに財産を分けることができます。今後の会社の売買についても、花子さんが単独で相続した方が円滑に売買をすることができます。

 

5 その後の展開

相談時には余命半年といわれておりましたが、公正証書役場で遺言書を作成した時は、抗がん剤が効いてがんが小さくなっている、と喜んでみえました。そして会社を手放さず、まだまだ仕事を頑張っていくとおっしゃっていました。ところが3か月後、花子さんから連絡があり、太郎さんは容体が急変し、お亡くなりになられたとのことでした。太郎さんが亡くなったことは悲しいことですが、遺言書を作成しておいたので、今後の手続きもスムーズに行うことができているとおっしゃってくださいました。

(文責:理事 竹内みどり)