揉め事を扱う事が多い法律事務所だからこそ縁ディングノートの必要性を感じる事~2

1法律事務所は争いの予防も得意

筆者は法律事務所に20年勤務し、現在は法律事務所内の相続コンサルタントとして活動をしております。今回は、事前に相続対策をしたことにより、ご相談者様の想いをきちんと伝えられ、「家族がもめずに幸せに過ごせた事案」について実際にあった事例(お名前、家族構成等は実際と違います)を元にお伝えしていきます。

2 家族構成と背景

ご相談者様は、植田三郎(仮名)さんです。三郎さんが末期のがんになり、三郎さんの財産の分け方についてのご相談でした。

三郎さんは、奥様の梅子さんと結婚し、子どもがいませんでした。奥様の梅子さんは、姉の佐藤花子さんとても仲がよく、隣に家を建て、家族ぐるみで生活をしていました。そのため、三郎さんと梅子さんは、当然花子さんの子どもたちとも我が子のように接していました。

家族ぐるみのお付き合いのエピソードの一つとしてこんな話がありました。お互いのご主人が先になくなるのを想定して(通常は、平均寿命は女性の方が長いので)、お互い一人になったら梅子さんの家へ花子さんが越してきて、花子さんの家に住む息子夫婦が育てる孫たちの成長を見守っていこうと話していたそうです。がんを患っていた三郎さんは、自分の死後残された梅子さんも寂しくないだろうと、とてもありがたく思っていました。

そんな中、数ヶ月前に突然梅子さんがお亡くなりになってしまいました。この頃は、三郎さんは末期がんを患っておりましたので、愛する梅子さんの想いをつなぐためにどうしたらいいのか悩んでいました。

ちなみに、三郎さんにはCさんという兄弟がいましたが、結婚してからは全く付き合いがありませんでした。

 

3 もし、事前の対策をしていなかったら

もし、事前の対策をしていなかったら、三郎さんは子どもがいないので、相続人は三郎さんの弟のCさんとなります。何も対策をしなければ、財産はCさんに渡り、梅子さんと花子さんが一緒に梅子さんの家で暮らす夢(今は位牌ですが)も実現できなくなってしまいます。

 

4 対策は遺言で

三郎さんは梅子さんに全財産を使ってもらえばいいと思っていました。しかし、梅子さんが亡くなった今、三郎さんは兄弟Cに渡すよりも、我が子のように育ててきた昭夫さん、夏夫さんに渡したいと思っていました。血は繋がっていませんが、本当に大切に思っていたからです。

結論的には「昭夫さんに全財産を相続させる」旨の公正証書遺言を書いてもらいました。

 

5 その後の展開

三郎さんが公正証書遺言を作成してから半年後、三郎さんは佐藤さん一家に見守られながら息を引き取りました。看病も葬儀も全て、遺言書どおりに財産を引き継がれた昭夫さんが執り行いました。三郎さんのご兄弟のCさんにも連絡をして、葬儀には参加してくれました。

ところが四十九日が終わった頃、花子さん宛に弁護士から内容証明が送られてきました。内容は「三郎さんの相続人はCさんなので財産を引き渡して欲しい」というものでした。遺言があれば、兄弟には遺留分がありません。そこで弊所から、三郎さんには公正証書遺言がありCさんには相続権がないことをお伝えしました。そして、Cさんに1円も渡すことなく、無事に昭夫さんが財産を引き継ぎ、梅子さんと三郎さんの想いもきちんと引き継いでいくことができました。

 

6 まとめ

相続で一番大切なことは、「想いを残すこと」だと筆者は思います。今回の場合、もし、三郎さんが遺言を書かなかったら、お世話をしてくれた佐藤家へ財産を残すことができませんでした。今回は公正証書遺言で、「ご相談者様が何を一番求めているのか」を一番に考え、そこに法律の力を使って争いのないように対策をしました。しかし、想いを残すことの方法は、縁ディングノートも、お手紙も、ビデオレターもたくさんあります。

ご自身にあった方法を見つけて安心して第二の人生を送っていただきたいなと思っています。

(文責:理事 竹内みどり)